言葉にしない力――河井寛次郎に学ぶ、静かなる影響力

60代

静かなる影響力について考える

河井寛次郎の言葉に、こんな一節があります。

「影響力というのは、さわがぬものである。
静かなる影響力こそ、ほんとうの力だと思う。」

この言葉を初めて目にしたとき、心に静かに残りました。
派手さも主張もなく、けれど確かな輪郭を持っている——そんな印象でした。

仕事がら季節の草花を飾ることを日々の習慣にしています。
器を選び、置く場所を考え、少し背景にも気を配る。
それだけのことですが、空間の雰囲気がやわらぎ、自分自身の気持ちも整ってくるのを感じます。

誰かに見せるためでも、評価されたいわけでもなく、
ただ自分が「整えておきたい」と思うからそうしています。


小さなことが、空気を変える

季節のしつらいは、暮らしの中のごくささやかな工夫です。
花をいける、香りを取り入れる、風の通り道をつくる。
そんな小さなことでも、部屋の空気が変わります。

こうした空間で過ごす時間が、自分の心の状態に静かに影響しているよう。

そして不思議なもので、それはやがて、誰かとの会話や態度、仕事や日々の選択にも、少しずつ反映されていくように感じます。

意図して「影響を与えたい」と思わなくても、
日々の積み重ねや、身の回りのあり方が、無言のまま周囲に伝わっていくことがあるのです。


声を上げずとも伝わるものがある

年齢を重ねると、誰かに強く訴えることや、自分の考えを押し通すことに、以前ほど魅力を感じなくなりました。

それよりも、どんな場所にいても、自分なりの整った時間や空間をつくれることのほうが、よほど力強いことのように思えるようになったんです。

影響力とは、声の大きさや行動の派手さではない。
それが河井寛次郎の言う「静かなる影響力」であり、
私たちが暮らしの中で手にできる、確かな感覚のような気がします。


自分を整えることは、まわりにも波紋を広げる

しつらいを通して空間を丁寧に扱うことは、
言葉にしなくても、自分の内面を表しています。

無理に発信しなくても、誰かに何かを教えなくても、
整った空間や所作が、静かにまわりに作用していく。

声をあげるよりも、何気ないふるまいにこそ、人は触発されるのかもしれません。


河井寛次郎 名作全集:

河井寛次郎記念館


ふとしたきっかけで出会った言葉が、暮らしの中で息づいていく。
それが、静かな影響力の本質なのだと思います。

私自身、そうした在り方をこれからも大切にしていきたいです。


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